衆議院議員の萩生田光一氏が講演で語ったとされる子育てに関する意見が波紋を呼んでいます。
擁護の声も一定数ある通り、確かにいいことをおっしゃっている部分もあります。
しかし前提としていることに賛同できないのと、問題のある部分もあるので全体的に擁護することはできません。
そして「メディアの切り取り方」に関して否定的な意見も目にしました。
「タイトルだけ読んで条件反射で批判してる奴多すぎ」的なことを言う人を多く見かけたので、まず客観的に発言内容を分解して読み解いた上で、具体的な問題点を指摘します。
目次
発言内容を分解して読み解く
発言内容のソース
萩生田氏「赤ちゃんはママがいいに決まっている」:朝日新聞デジタル
おそらくこちらが最初の報道かと思われます。
また、最も具体的に発言内容を記載しているのもこちらかと思われます。
残念ながら動画ソースは見つかりませんでした。
この記事における「発言要旨」をベースにして分解して読み解いていきます。
恣意性をできるだけ排除するため、各パートにタイトルを付けず「パート1,2」というようにシンプルに表記します。
パート1
東京ではいま0歳の赤ちゃんの保育園が足りないことが問題になっていて、国では「待機児童0」を目指すと言っています。もちろん今の対処として待機している赤ちゃんを救済していくのは大事なことでしょう。
事実に基づいていますし問題ないかと思います。
正確に言えば待機しているのは親なので、救済の対象は赤ちゃんではなく親ですが、大きな問題ではないかと思います。
パート2
しかしみなさんよく考えて頂きたい。0歳の赤ちゃんは生後3~4カ月で赤の他人様に預けられることが本当に幸せなのでしょうか。
子育てのほんのひととき、親子が一緒にすごすことが本当の幸せだと私は思います。
早期に保育園に預けることに対して批判的な意見ですね。
また「保育者は親が望ましい(親以外は望ましくない)」という意見のようです。
既に多くの研究によって「保育園に預けることが子供の発達にマイナスの影響を及ぼすとは言えない」ということが定説になっています。
この主張に対しては「NO」と言っていい十分なエビデンスがあると言っていいでしょう。
パート3
仕事の心配をせず、財政的な心配もなく、1年休んでも、おかしな待遇をうけることなく、職場に笑顔で戻れるような環境をつくっていくこと。もっと言えば慌てず0歳から保育園にいかなくても、1歳や2歳からでも保育園に入れるスキーム(枠組み)をつくっていくことが大事なんじゃないでしょうか。
その通りかと思います。
異論ありません。
パート4
子育てというのは大変な仕事です。これを「仕事をしていない」というカテゴリーに入れてしまうのがおかしい。世の中の人みんなが期待している「子育て」という仕事をしているお母さんたちを、もう少しいたわってあげる制度が必要なんだと思います。
子育てを「仕事」と呼称することが適切かどうかという議論はありますが、主張の内容に違和感はありません。
強いて言えば「お母さん」と限定しない方が適切かと思います。
パート5
(子育ての話のなかで)「お母さん」「お母さん」というと、「萩生田さん、子育てを女性に押しつけていませんか。男の人だって育児をやらなきゃだめですよ」とよく言われるんです。その通りだと思います。
その通りです。
ただし「母親が育児を担い、父親は育児を担わない」という家庭のあり方を夫婦間の合意に基づいて取っているケースは否定されるべきではないと思います。
パート6
だけど、冷静にみなさん考えてみてください。0~3歳の赤ちゃんに、パパとママどっちが好きかと聞けば、はっきりとした統計はありませんけど、どう考えたってママがいいに決まっているんですよ。0歳から「パパ」っていうのはちょっと変わっていると思います。
最もクローズアップされ、批判されている部分です。
まず「0〜3歳の赤ちゃん」という表現が適切ではないと思います。
児童福祉法では満一歳までを「乳児」、その後就学前までを「幼児」と定義しています。
2歳くらいになれば歩いたり喋ったりする子どもがほとんどですから、一括りにして「赤ちゃん」と呼称するのは適切ではないかと思います。
次に「どう考えたってママがいいに決まっている」という部分についてです。
ボウルビィの愛着理論では「心の安全基地たりうる特定の養育者」の存在が重要とされています。
それが「社会状況的に母親であることが多い」というだけで「母親でなくてはならない」わけではありませんし、「どう考えたって」と言えるような根拠はありません。
パート7
ですから逆に言えば、お母さんたちに負担がいくことを前提とした社会制度で底上げをしていかないと
「0歳で保育所に預けるのは望ましくない」「三歳までの乳幼児は父親より母親の方が好き」という前提に基づいて「子育ての負担は主に母親が担うことになる」というロジックです。
前提が不適切なので、当然ながら適切な結論ではないと考えます。
パート8
言葉の上で「男女平等参画社会だ」「男も育児だ」とか言っても、子どもにとっては迷惑な話かもしれない。
パート2と6で言及した通り、主たる養育者の性別や親かどうかは重要ではありません。
パート9
子どもがお母さんと一緒にいれるような環境が、これからはやっぱり必要なんじゃないかと私は思います。
パート7同様に不適切な前提に基づいているため、適切な意見ではないと思います。
具体的に何が問題か
ここまで客観的に書いてきましたが、以下に発言の問題点を指摘します。
子育てに関する不見識
一番はここです。
ある種ものすごく純粋に「子育てはこういうものである」と考えていらっしゃるように見えます。
しかし上述した通り、それは萩生田氏の不見識による部分が大きいです。
誤った理解やバイアス、イデオロギーに基づいて政治を主導されるのはそれこそ「迷惑」極まりないので、正しい見識を持っていただきたいです。
都合の良い子ども目線で自説を強めようとしている
「子どもは本当に幸せでしょうか」「赤ちゃんはママが好きに決まっている」のようなタイプの「子どもを主語にして代弁するような言い方」は非常に危険です。
情緒に訴えやすいのでそのような言い方は便利に使われやすいのですが、はっきり言って害悪です。
当然ながら私も一人の親として「子どもにとって何が良いか」と考えます。
ただそれを自説を強めるために都合よく使ったりしてはならないと思います。
男性を子育ての現場から排除しようとしている
本件から派生して「#男の育児は迷惑じゃない」というタグができました。
多くの父親や母親がそのタグで自身の育児体験や夫の育児に助けられている話を投稿しています。
それに対して「言葉尻を捉えて揚げ足を取っている」というような意見も目にします。
しかし私はどういう文脈であれ、男性が育児をすることを指して「迷惑」というネガティブな言葉を使うことを許すことはできません。
この言葉だけではなく、全体を通して男性を育児から遠ざけようとする意図を感じます。
父親にも育児させてほしいし、男性保育士もたくさん増えてほしい。
子育ての現場から男性を排除しようとしないで。
ましてや「迷惑」だなんて言わないで。#男の育児は迷惑じゃない pic.twitter.com/fRt2e9jAZf— 育 休 男 子 . j p (@ikukyudanshi) May 29, 2018
上記のようにツイートした通り、子育ての現場から男性を排除しないでください。
また「イクメンぶってドヤ顔するな」という批判も目にしました。
イクメンがもてはやされる時代はもう終わりつつあって、イクメン気取っても「それが何か?」と言われる時代になってきていると思います。
投稿した方を始め世の多くの子育て中の父親たちは単に一生懸命育児しながら「大変だなぁ」「幸せだなぁ」と思っている普通の人たちだと私は思います。
最後に
萩生田氏は是非ご自身の子育てに関する考え方や批判を受けて感じたことを発信していただきたいと思います。
間違っても「誤解を与えたのであれば謝罪したい」みたいな残念なものではなく、しっかりとご自身の言葉で思いを語っていただきたいです。
もし私の書いたことに誤りがあれば謝罪して訂正します。
萩生田氏に限らず政治家の方には、賛否両論ありそうなことこそ是非ご自身の言葉で発信し、有権者に判断の材料をいただきたいです。
そして世の中に蔓延る「母性神話」や「三歳児神話」、そして「保育園に預けるのはかわいそう」「やっぱりママじゃなきゃね」などの呪いの言葉が早く消え去りますように。
追記
批判を受けての萩生田氏のコメントが中日新聞に出ました。
「子育ては夫婦の力を合わせてやるもの。子育てを女性に押しつけていると言われるのは残念だ」
「子育ての期間はもっと特別であっていい。子どもの行事や病気で休む人を『またかよ』と思わない社会風潮が必要だ」
「男性の育児参加や育児休暇はいらないとは思っていない。父子家庭も否定していないし、応援する」
真っ当だと思います。
「女性だけが子育てすべきだと思ってはいないが、役割分担がある。乳児期は母親に負担がいく。父親が出産、授乳を代わることはできない」
妊娠、出産、授乳以外に父親にできないことはありません。
乳児期に母親の負担が大きいことはその通りですが、だからこそ父親にできることがたくさんあるのです。
「乳児のひととき、ゼロ歳児はママがいい。ここだけは曲げない」
「『男も平等にやれ』という話にはくみしない」
なんでこんなに強堅に主張できるのでしょうか・・・謎です。
参考
なぜ子育てにアタッチメントが必要なのでしょうか|(社)日本アタッチメント育児協会
ボウルビィが提唱した愛着理論についてのまとめ
「 3歳児神話を検証する2」|第1回学術集会|日本赤ちゃん学会
NHK「すくすく子育て」でお馴染みの大日向雅美教授の骨太かつ分かりやすい論考
保育が子どもの発達に及ぼす影響に関する研究 平成13年度厚生科学研究1:保育効果に関する縦断的研究(PDF)
児童福祉学者の網野武博教授による「保育所に預けることが乳幼児にマイナスの影響があるか」の調査