パタハラ疑惑に対するカネカの公式見解は「不十分」「不誠実」「不見識」である

先日取り上げたカネカのパタハラ疑惑、日経ビジネスを中心にBuzzFeed、ハフィントンポストなどのネットメディアが切り込んでいました。

夫の育休から復帰後2日で関西への転勤辞令が出たーー。当事者の妻がツイッターでこう発信し、議論が巻き起こっている。「パタニティーハラスメントでは」「見せしめじゃないか」。ネットで様々な意見が飛び出すなか、当事者の夫婦が日経ビジネスの単独取材に応じた。

もろもろ明るみになってくる中で、テレビメディアも取り上げ始めています。

サラリーマンの男性が育休を取った直後に転勤の内示。これは育児パパへの嫌がらせ=パタハラにあたるのか?

当初「当社が名指しされていないのでコメントしない」としていたカネカも、自社のことであると認めた上で公式見解を出しました。

今回はその公式見解をできる限り丁寧に読み解いていきます。

一言で言うと「当社は社会の公器としての役割を果たさない、従業員に優しくない会社です」ということを堂々と宣言したものと捉えています。

正直怒りに震えましたし、あまりにも悲しいのですが、いつも通り「冷静に」「建設的に」「ポジティブに」を心がけてみます。

法的に問題があるか

最も重要な論点は「本件に法的問題があるか」「あるとしたらどのような点か」です。

素人がググって調べた程度なので、問題あればご指摘よろしくお願いします。

結論は「裁判しないと分からない」なので、具体的な法令にご興味ある方以外は法的問題の有無に関するまとめに飛んでくださいませ。

不利益取扱いに当たるか

育児介護休業法第10条などにおいて「育児休業の取得を理由とした不利益取扱いの禁止」が定められています。

今回の例で言うと、異動が男性従業員が育休取得したことに対する「見せしめ」である場合は本法律に違反することとなるでしょう。

こちらについて、従業員の妻の見解は「見せしめ(パタハラ)である」、カネカの見解は「見せしめではない」と対立しています。

上司や人事部に「男性のくせに育休を取得するような空気の読めないやつは追放だ」というような意図があったことが証明されればパタハラである、つまり法律違反です。

具体的にはそのような意図が明確に含まれる上司の発言の録音、メール文面があれば証明は可能です。

従業員がそのような記録を残している可能性は低いため、証明することは難しいでしょう。

育児の状況に対する配慮はあったか

育児介護休業法第26条において「事業主は、労働者を転勤させようとする場合には、その育児又は介護の状況に配慮しなければなりません」と定められています。

カネカは公式見解において「種々の配慮」があったと主張しています。

具体的には「転勤休暇や単身赴任の場合の帰宅旅費の支給といった制度に加え、社員の家庭的事情等に応じて、着任の前後は、出張を柔軟に認めて転勤前の自宅に帰って対応することを容易にするなど」とのことです。

判例や弁護士の見解などを見るに、おそらく今回の従業員側の事情(家を購入した直後、育休復帰から2日目に発令)が「配慮に欠ける」と見做されることはないように思われます。

ただ「配慮があったか、なかったか」の線引きは時代背景とともに変わっていくものなので、今後どうなるかは分かりません。

ただし、こちらも裁判してみないと分からないことなので、証明は難しいでしょう。

転勤発令に問題はないか

転勤を含む異動命令は会社側の権利とされており、原則として従業員はそれを拒むことはできません。

ただし「業務上の必要性の有無」「不当な動機・目的の有無」「労働者に『通常甘受すべき程度を超える著しい不利益』を負わせるものでないか」といった論点次第では「権利の濫用」とされ無効になるケースがあります(民法1条3項,労働契約法3条5項

従業員の妻のツイートからは、各所相談の上、その点を理解していたことが伺えます。

そして「業務上の必要性」について「説明がなかった」としています。

カネカの公式見解からは「説明があったか」は読み取れませんが「必要であると判断していた」と主張しています。

「必要性の有無」はある種何とでも説明できてしまうことなので、実際にどうであったかを立証することはそれこそ裁判でもしない限りは困難でしょう。

その他2つの観点に関しても立証するためには裁判をする必要があります。

退職日の指定があったか

退職日に関しては民法第627条によって定められていますが、判例や弁護士見解によると概ね「従業員側に決定権がある」とされることが多いようです。

よほどの事情がない限り会社側が退職日を指定することは法律違反となります。

従業員の妻は「上司から『退職日は5月末とせよ』と言われた」と主張しています。

カネカ側は「退職日の指定はなかった」と主張しています。

こちらもメールや録音などで明確に「退職日を指定した」エビデンスがあれば証明できますが、おそらく持ち合わせていないと思われます。

有給取得の拒否があったか

労働基準法第39条において、有給取得は従業員の権利であり会社に拒否権がないことが定められています。

理由の明示も不要と定められています。

従業員の妻は「有給取得が認められなかった」と主張しています。

本論点についてカネカ側は何も触れていませんが、弁護士を入れて調査したということなので「有給取得を拒否した事実はない」という立場だと思われます。

こちらも録音やメールのエビデンスがなければ立証することはできません。

法的問題の有無に関するまとめ

「不利益取扱いに当たるか」「育児の状況に対する配慮はあったか」「転勤発令に問題はないか」「退職日の指定はあったか」「有給取得の拒否があったか」という5つの法的論点に関して「エビデンスがあって裁判をすれば立証可能」と言えると思います。

裏を返せば「エビデンスがなければ立証は困難」ということになり、かつ「エビデンスがあったとしてもその有効性は裁判で立証する必要がある」でしょう。

日本は法治国家なので「法律的にどうなのか」の結論を出すためには裁判が必要です。

マイホーム購入直後、小さなお子さんが2人、夫が急遽専業主夫、という状態のご夫婦に「是非裁判で真実を明らかにしましょう!」と言うのは酷だと思います。

カネカ側はそれも踏まえた上で「自分たちが法律違反を問われるリスクはない」と判断して強気な公式見解を出していると推察されます。

「カネカの対応が何らかの法律違反を含むものか」は、残念ながら闇の中でしょう。

もし当事者ご夫婦が裁判を起こすのであればクラウドファンディングなどで支援しますが、どちらかと言うとご家族が平穏な暮らしを送られることを望んでいますので、無理をなさらないでくださいね。

※もし「夫、専業主夫なんだから時間あるんだし裁判すればいいじゃん」と思った方がいたら、一ヶ月程度二児のワンオペを経験なさるといいと思います。

カネカは何をどのように調査したのか

公式見解によると「6月2日に弁護士を含めた調査委員会を立ち上げ」「3日に社長から社員向けのメール」「5日に社内外監査役が調査委員会からの報告を受け問題ないと判断」とあります。

何をどのように調査したかについては一切触れられていません。

一般的に「なかった」を証明することは難しいです。

仮に「退職日は5月末としなさい」と上司からメールで指示していた場合、一発アウトです。

騒動が大きくなったのは6月1日で、そのタイミングで上司が都合の悪いメールを全て削除した可能性があります。

削除済みメールも含めて当該従業員との育休や転勤、退職に関わる全てのメールをつぶさにチェックする必要がありますが、実施したのでしょうか。

当然ながら上司や周囲の同僚、人事へのヒアリングがなされたはずですが、真実を証言した場合不利な状況に置かれないという保証をどのように伝えたのでしょうか。

調査委員会がどのようなメンバーで構成されていたのかも不明です。

社内外監査役に関してはホームページに記載のある社内2名、社外2名がメンバーだと思われます。

株式会社カネカの役員一覧

松井英行氏、岸根正実氏、藤原浩氏、魚住泰宏氏は何をもって「問題ない」としたのでしょうか。

特に社外監査役の藤原氏、魚住氏はコーポレートガバナンス上の役割を適切に果たしたと言えるのでしょうか。

詳細が分からないので判断しようがありません。

一方で元従業員の妻のツイートは大変具体的、かつタイムリーです。

仮にカネカ側が公式見解をもって幕引きとしてだんまりを決め込むようであれば、調査の信頼性が疑われるので、何か都合の悪い真実を隠しているのではないかと勘ぐられても仕方ありません。

「真実を明らかにする」ための調査ではなく「問題ないという結論ありき」での調査がなされたのではないか、という疑念は強く残っています。

おそらく各メディアが社長や監査役に対して既にアプローチし始めていると思いますので、続報を期待しています。

法的に問題が無ければ良いのか

カネカの公式見解は、本件を「法的問題があったか」という側面にのみフォーカスしているものです。

その一点においても「適切かつ十分な調査はされたのか」について強い疑義が生じます。

ただ本件は「法的問題があったか」という側面のみで語られるべきものなのでしょうか

「社会の公器」としての企業、そして企業経営

「企業は社会の公器」という松下幸之助の言葉があります。

企業は利益の追求や従業員満足度の向上のみならず、より良い社会を創っていく主体である、という意味です。

「男性の育休取得推進」「家庭の事情のある従業員へのケア」「ハラスメント撲滅」などの社会的テーマが本事案には含まれています。

社会全体としてまさに答えを模索している最中の諸問題ですが、それらについて真摯に誠実に向き合う姿勢は公式見解からほとんど見受けられません。

内示から発令、着任までの期間の短さ

手続きとしては、ルール上、内示から発令まで最低1週間が必要です。発令から着任までの期間は、一般的には1~2週間程度です。

引っ越しのことだけを考えてもあまりにも短い期間だと感じます。

我が家も子どもが二人いて保育園に通っていますが、上記期間で転園を完了させろと言われたら「ちょ、ま(汗)」ってなります。

このような短期間での転勤を従業員に求める社内ルールは適切と言えるのでしょうか

転勤休暇や単身赴任の場合の帰宅旅費の支給といった制度に加え、社員の家庭的事情等に応じて、着任の前後は、出張を柔軟に認めて転勤前の自宅に帰って対応することを容易にするなどの配慮をしております。

率直に申し上げて、配慮が不十分です。

異動の話を伝えるのが遅すぎる

本件では、育休前に、元社員の勤務状況に照らし異動させることが必要であると判断しておりましたが、本人へ内示する前に育休に入られたために育休明け直後に内示することとなってしまいました。

「育休中だったので内示を伝えられなかった」ということらしいです。

グラハム・ベルの生い立ちからこってり説明した上で「電話すれば良かったんじゃないですかね」と言いたくなりますね。

社員の希望を受け入れない理由が「けじめ」

また、着任日を延ばして欲しいとの希望がありましたが、元社員の勤務状況に照らし希望を受け入れるとけじめなく着任が遅れると判断して希望は受け入れませんでした。

「けじめ」ときました。

すごいパワーワードだと感じるのですが、辞書的には以下のような意味です。

道徳や規範によって行動・態度に示す区別。節度ある態度。

社会における道徳や規範は変わっていくものです。

一昔前であればデスクで喫煙していても「節度ない態度」とは言われなかったでしょうが、今そういう行為をしている人を見かけたら「節度どころか常識がなさすぎ」と思いますよね。

今回カネカ側の対応がなぜこれほど大きく批判されているかを考えるに「家庭の都合よりも会社の都合を優先せよ」というモーレツサラリーマン的道徳、規範が通用しなくなってきているということの現れであると感じます。

そのような時流を完全に無視して、旧態依然な「けじめ」文化を踏襲し続けようとしている、その態度こそがカネカの病理であり、批判されている本質です。

「会社は一切悪くない」という姿勢

着任後に出張を認めるなど柔軟に対応しようと元社員の上司は考えていましたが、連休明けの5月7日に、退職日を5月31日とする退職願が提出されたため、この後は、転勤についてはやり取りがなされませんでした。このため元社員は転勤に関しての種々の配慮について誤解したままとなってしまったものと思います

「こっちは配慮してたのに向こうがさっさと退職しちゃったから誤解してたんです、我々は配慮していたんで悪くないんです」ときました。

よくある失言後の政治家の答弁みたいですね。

当社は、今後とも、従前と変わらず、会社の要請と社員の事情を考慮して社員のワークライフバランスを実現して参ります。

極めつけは「従前と変わらず」です。

現状を「社員のワークライフバランスを実現すべく配慮している」状態と捉え、批判を受けて改善しようとする姿勢はゼロです。

「自社に対して謙虚に、批判的になれない会社である」「従業員に優しくない会社である」ということを積極的に広報していると感じます。

以前のインタビューで角倉護社長は「プロダクトアウトではなくマーケットインで」と語っていますが、製品開発のみならず企業のあり方についてもマーケットインで考えてほしいものです。

その他にも大変素晴らしいことを語ってらっしゃるので、是非ご覧いただき「あの公式見解を承認した社長と同一人物だろうか」という困惑を味わってみてください。

社会が求めるものを捉え、事業に生かし、イノベーションを興すためにはどうすればいいのか。カネカは最終商品の消費者に触れ、課題を見出す「消費者に近い会社」を目指す。一方で日本郵便は、社外とのつながりを築きオープンイノベーションを行おうとしている。両社の社長に、その道筋を聞いた。
時代の流れによって、社会が求めるものは急速に変化してゆく。その中で、自社の強みを生かし、需要を作り出していくためには、どのようにすればいいのか。大手化学メーカーカネカの角倉護社長と、日本郵便の横山邦男社長が、変革の経緯を語り合う。

「他山の石」としてのカネカ炎上

上述したように本件は「企業文化のまずさ」「広報対応のまずさ」が露呈した炎上事案でした。

本件をキッカケに「私も同じような状況に追い込まれた」「ローン組んだら逃げられないから転勤させるケースはうちでもある」というツイートが散見され、社会の病理が顕在化してきました。

残念ながら現状ではこのような事案は「よくあること」なんだと思います。

しかしながら「このままじゃダメだ」と感じている人が数多くいるということが明らかになってきました。

長期トレンドにおいて、このような現状を変えることができない会社は自然淘汰されていくでしょう。

「1ヶ月したら誰も言及しないよ」という意見も見かけましたが、今後似たような事例は次々に顕在化してくると思いますし、その度にカネカの事例は引き合いに出されるでしょう。

各企業は本件を「他山の石」とし、自社のあるべき姿を模索し、実現すべく必死になってください。

大切な社員のために、そして「社会の公器」としての役割を果たしていくために。

コメント

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