児童手当の特例給付金について減額・または廃止の方向で議論が進んできましたが、どうやら結論が出たようです。
この件については以前から子育て世帯や複数メディアからネガティブな反応が見られていました。
私も正直「そこ削りにきた?マジで?」と思いましたし、財務省が削減ありきの資料作ってることを批判するブログも書きました。
ただ、そもそもの法律の内容や改正のポイント、影響範囲が分かりにくい中で「児童手当が削減される」という印象のみが広まっている感があります。
本稿では「そもそも特例給付って何?」「どれだけの家庭が影響を受けるの?」などの情報を整理した上で、課題はどこにあるのかを考えてみたいと思います。
目次
児童手当とは何か
根拠法は児童手当法で、内閣府のHPによると目的は以下のようになっています。
児童手当は、子ども・子育て支援の適切な実施を図るため、父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的認識の下に、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資することを目的としています。
0歳から中学校卒業までの児童を養育している方に支給されます。※内閣府HPより引用
原則として支給対象期間は子どもが中学校卒業まで、支給金額は3歳未満まで月額15,000円、3歳以上で10,000円です。
2月、6月、10月に4ヶ月分がまとめて振り込まれます。
約900万人の子どもが支給対象となっています。
児童手当の「特例給付」とは何か
簡単に言うと「一定の所得を超えた場合は子ども一人あたり5,000円の支給にする」という例外規定です。
現在は夫婦のうち所得の多い側の所得をベースに特例給付対象になるかどうかが判定されています。
約100万人の子どもが支給対象となっています。
法改正の具体的な内容
2020年12月時点では「自民党、公明党で合意した」段階で、来年の通常国会に提出される関連法案が可決成立し、施行されることになります。
とは言え与党内で合意したことは大きいので、それを元に解説します。
なお、現時点では2022年10月支給分から適用される予定です。
所得制限基準の「世帯合算化」は実施しない
これには正直驚きました。
所得制限に該当する(=特例給付対象になる)基準を現在の判定基準である「夫婦のうち所得の多い側の所得」から「世帯所得」に変更する方向で議論が進んできました。
所得による傾斜を付けること自体の是非はともかく、付けるのであれば「世帯」で見ることが合理的なのは明らかです。
同じ世帯所得1,000万円でも「妻:1,000万円 夫:0円」の場合は支給されず「妻:501万円 夫:499万円」の場合は支給される、というような構造になることに合理性を感じません。
なぜここが「夫婦のうち所得の多い側の所得」という基準が維持されたのか調べたのですが、どうやら公明党が反対したようです。
公明党の反対理由は「影響の大きさ」とのことですが、基準額をどこにするか次第なのでイマイチ意図が分かりません。
所得制限基準の変更
「所得によって現在の月額5,000円から2,500円に減額、さらに所得が多い世帯は廃止する」という案も出ていたようですが、結論としては「特例給付対象となる所得基準を変更する」となりました。
具体的には、これまで「所得が一定額を超えた場合特例給付対象となる」だったのが「一定額までは特例給付対象となり、それ以上だった場合は支給しない」になりました。
所得がどれだけ多くても子ども一人あたり月額5,000円の特例給付は誰でももらえている現状から「全くもらえないケースもある」制度になるということです。
なお「960万円〜1,200万円未満が5,000円、それ以上は支給しない」と報道されていることが多いようですが、これは「夫婦の内、所得の多い側が少ない側と子ども二人を扶養している4人家族」のケースなので、扶養する家族数に応じて基準所得は増減します。
いわゆる「標準世帯」というやつですね。(この考え方、時代遅れなので早く撤廃すればいいのに、と思いますが)
浮いた財源をどう使うか
浮いた財源は「待機児童解消のための保育の受け皿充実のため」に充てるとのことです。
支給されなくなる対象の子ども数が61万人程度とのことなので「61万人×5,000円×12ヶ月=366億円」相当の財源です。
4年間で14万人分の保育施設確保に充てる想定とのことです。
一番の課題は何か
「そもそも子育て支援に対する財源が少ない」「子育て支援の財源内での配分調整で良いのか」「所得による支給格差があるのが妥当か」など論点は複数あります。
私の意見は以下です。
- 子育て支援に対する財源は是非増やしてほしい
- 子育て支援の財源内での調整は一時的にはやむを得ないが、早急に財源全体を増やしてほしい
- 所得に基づく支給額の傾斜はあっても良い
- 傾斜を付けるなら世帯所得を基準として用いるのが合理的である
財源は有限ですし、諸外国と比べて子育て支援や教育への国庫支出比率が少ないのも、少子高齢社会であることを考えると一定程度やむを得ない部分があると思います。
とは言えもう少し何とかならんのか、とは思いますが・・・。
財源の確保や配分のあるべきについての議論や政策立案は専門家に譲るとして、私が今回のニュースに関して一番の課題と感じているのは「政府は子育て支援を重視していない」というメッセージとして伝わっていることです。
現役子育て世帯の中でも今回の法改正の影響を受ける世帯はそれほど大きな比率ではないはずです。
ざっくり言うと現在支給対象となっている子ども1,000万人の内61万人なので、影響を受けるのは6.1%です。
複数の子どもを持つ世帯もいるので、影響を受ける「世帯」比率にしたら若干変わりますが、9割程度の世帯は影響を受けないと言って良いでしょう。
影響を受けない世帯が圧倒的に多いであろう法改正にも関わらず、ネガティブな反応がすごく多い印象です。
これは政府側の広報の問題も大きいですが、メディアの報じ方にも問題があります。
上記の記事が典型的ですが、雑な煽りタイトルと内容で多くの世帯にネガティブな影響が及ぶような書きぶりをしています。
現在の所得制限基準額をそのままに、世帯合算が適用された場合の影響を書いている部分などは、分かっていて煽ろうとしているような印象すら受けます。
事象を過剰にネガティブに拡大し拡散するメディアの責任も大きいと思います。
政治やメディアに対して個人が取るべきスタンス
ちょっと違う話ですが、2019年10月から施行された「幼保無償化」は所得制限がありません。
幼保無償化のように「払っていたものを払わなくて良くなる」ことよりも、特例給付削減・廃止のように「もらっていたものがもらえなくなる」方が気持ち的にインパクトが大きいのは理解できます。
ただ、情報の受け手として、個々人が条件反射せず、自分が影響を受けうるのかや政策の目的や効果を冷静に判断するリテラシーを持つことも大切です。
とは言え、そもそもとして政府に対して「ホントに子育て支援に本気ですか?」という疑念が通底していることの影響は無視できません。
もし、政府の少子化対策や子育て支援の全体デザインが明確かつ納得感のあるもので、政府からの日頃の発信や政治家一人ひとりの発言や行動が信用できるものであれば、状況はまた異なったでしょう。
個々人が条件反射的にネガティブな反応をしてしまうことも避けるべきことですが、政治や行政が信用を得ようと努力すること、メディアが公正な報道をすることもセットで議論されてほしいと思います。
政治に対しては投票以外にもできることがあります。
メディアに対しても批判的に見て指摘することができます。
ささやかでも、少しずつでも、個人としてできることをやっていきましょう。
(おまけ)課税所得を減らすためにできること
基準となるのは「世帯において所得が多い方の所得」で「収入」ではありません。
「課税所得=収入ー各種控除」なので、課税所得を減らすためには「収入を減らす」か「控除を増やす」必要があります。
「収入を減らす」は個人でどうこうするのが難しいですが「控除を増やす」はある程度調整できます。
取り組みやすいのはふるさと納税やiDeCoとかでしょうか。
https://financial-field.com/tax/2020/04/21/entry-75565
※20201211追記
ふるさと納税は児童手当に関しては控除対象外でした、リサーチ不足ですみません!(iDeCoは控除対象です)
「年収は悪くないけど長時間労働で家族との時間が取れない」という方は「年収は下がるけどワークライフバランスの取れる会社」に転職するのもアリだと思います。
私個人は「年収は悪くないけど長時間労働で家族の時間が取れない」会社員だったので、次男が妻のお腹に宿ったのをキッカケに2018年にフリーランス(個人事業主)になりました。
現在3年目ですが、今の所会社員時代と比較して「年商も支出もアップしたので手取りはトントン」です。
ただ「家族との時間」は圧倒的に増えました。
個人事業主という形態特有のリスクもありますし、自分で何でもやらなきゃいかんので面倒臭さもありますが、メリットが圧勝しています。
個人事業主として所得を減らすために必要な情報は以下の書籍が分かりやすくてオススメです。
最後に(ボヤキ)
個人として政治やメディアに向き合う姿勢について書きましたが、一人ひとりが一生懸命調べたりしなきゃいけないのって正直面倒くさいし限界があるなぁと思います。
私は子育ての当事者だし、子育て支援の政策に興味持って日頃から調べたり発信したりしていますが、それでも今回の件について調べて理解して見解を導出するのに割と手間かかってます。
判断のために「調べて、整理する」手間を、本ブログが少しでも肩代わりできたのなら幸いです。
参考リンク集
甲南大学経済学部、足立泰美教授による児童手当に関する考察
「児童手当」のWikipedia
内閣府の児童手当に関するページ
幼保無償化に関する日本総研池本美香主任研究員による考察
内閣府による令和2年度の子ども・子育て支援制度の予算概要
https://www8.cao.go.jp/shoushi/budget/pdf/budget/r02_yosangaiyou.pdf
児童手当廃止に向けた財務省のレポートを分析した拙稿